10倍の早さで森が育つ「潜在自然植生」、その議論と姿勢

Forest stuff by Gruenewiese86

今朝見たニュースには久しぶりに驚かされた。なんと通常の10倍もの早さで森林が成長する方法があるというのだ。

森をとてつもないスピードで成長させるオープンソースプロジェクト「Afforestt」

この記事にも書かれている「潜在自然植生」理論について調べてみた。様々な議論も踏まえて考えてみた。

 

10倍の早さで森が育つ「潜在自然植生」理論

潜在自然植生とは今の状態で人為的な影響がなくなった場合、対象地域に最終的にどのような森が形成されるかを想定したものである。

最終的な森の構成樹種を選択し、適切に植栽すればその地域における安定した森が早期に創造できるはずである

green site 「母なる森」

この理論は、1956年、ドイツの植物学者ラインホルト・チュクセン(Reinhold Tuexen)によって提唱された。この方法をの概念を実際の植生回復へ応用する試みがチュクセンの弟子である宮脇昭によって始められた。ニュース記事内のインド人のシュベンデゥ・シャルマさんに「潜在自然植生」を伝えたのも宮脇さんだ。現在、横浜国立大学名誉教授で“1700カ所4000万本もの木を植えた”として有名だ。自然環境や植生に関する著書も多くあり、特に“鎮守の森”の存在にフォーカスして、森林と災害の関係性からの提言にも注目が集まっている。

宮脇昭さんについての詳しく書かれた記事もある。師との出会い、「潜在自然植生」理論の実践、また東日本大震災を受けて取り組んでいる事業についても書かれている。

どんぐりから苗を育て、命の森と豊かな海を育てよう 

 

宮脇緑化をめぐる議論

ただ、一概に「潜在自然植生」が正しいとは言い切れない。このブログでは以前から指摘されていた宮脇緑化に対する批判がまとめられている。

日々粗忽 succession宮脇緑化に対するmahoro_sさんの文章が分かりやすいので紹介します。

ここで書かれている通り、宮脇緑化(「潜在自然植生」理論)にはインパクトがある。特に10倍で森林が成長するといったキャッチコピーには多くの人の関心が集まるだろう。だが、植生学や生態学などの専門家から指摘があるのも事実だ。被災地での活動に対してもトップダウンで植生を決定するのではなく住民の意見を取り入れるべきとの指摘や庭園など限られた範囲にのみ有効だとの提言もある。

武蔵野の森が開発されてトトロが北摂の里山に逃げて来たんだよ、と宣伝したくなる。ドングリいっぱいあるし。猫バスが走ってるかは知らんけどさ。
武蔵野の森が開発されてトトロが北摂の里山に逃げて来たんだよ、と宣伝したくなる。ドングリいっぱいあるし。猫バスが走ってるかは知らんけどさ。 / kayakaya

 

「潜在自然植生」の今後、森の“正しさ”とは?

たしかに森林が10倍もの早さで成長するのは魅力的だ。砂漠や植物が育ちにくい土地、また災害地で自然を取り入れる活動は必要とされるだろう。

だが一方で、専門家の議論も続いている。まだまだ問題も多いようだ。議論の対象になっているのは、宮脇昭さんの植樹指導の根幹にある「その土地本来の森を」という考え方のように感じた。この議論で重要なのは土地を“見る”ことだと考える。見るとは、その土地の現在の状況だけでなく、歴史的な背景から未来の姿までを見据えた視点である。潜在的な自然環境の見極めがポイントになっている。

私は植物学や生態学の専門家ではないが、農業にも同じことが言えるのではないかと考えている。土地の状態や肥料の具合を調べなければ、その畑にどのような野菜が向いているのか判断できない。周りの環境を観察しなければ水はけや日の当たり方なども分からない。

農業も植生も人間本位で行ってしまえば、今までと同じ人工的で災害などにも耐えられない環境になってしまう。「潜在自然植生」が目指している本来の姿を求める姿勢は、どの立場でも変わらないはずだ。

「潜在自然植生」理論は宮脇氏が日本各地を調べ歩いた経験によって行われている。見習うべきは、観察して行動する実践力だ。

冒頭で紹介した『森をとてつもないスピードで成長させるオープンソースプロジェクト「Afforestt」』では、この方法をオープンソース化していく予定があると書かれている。「潜在自然植生」理論には、様々な可能性を感じる。これから更に多くの議論を重ね、少しでも“本来の森”に近づく方法が導かれることを願う。

きむらゆうきち

 

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